Column
Our Roots

 30 December, 2020    First Circle / Pat Metheny Group
 
 
 2020年2月、Pat Metheny の唯一無二のパートナーであった Lyle Mays の訃報が伝えられた。
「30年以上に亘って、音楽を共にしたすべての時間は特別でした。初めて一緒に演奏した一音から、二人の間には特別な繋がりがありました。人生のあらゆる場面で、彼は幅広い知識と音楽への智恵を発揮しました。彼を失って心の底から悲しみに包まれています。」(Pat Metheny 公式ウエブサイトより)
Pat Metheny Group (PMG)でのシンセサイザーアレンジも魅力だが、ライブアルバム "Travels"の情感溢れる"San Lorenzo"のピアノソロが大好きだった。 ご冥福をお祈りしたい。
 
 その数日後、久ぶりのPat Metheny のスタジオアルバム ”From this place” がリリースされた。
巨大な竜巻を描いたジャケットと同様、雄大で美しい空気に漂う漠然とした不安を感じさせる”America Undifined”で始まる印象的なアルバムだ。2016年以後の分断されたアメリカの ”social climate”に対する懸念がアルバムに反映されていると言われている。3年前の年末、南青山Body & Soulで堪能した Linda May Han Oh の繊細で強靭なベースが不安と希望を演出している。
盟友が旅立ち、ミズーリの空高く暗雲が立ち込める中、Pat Metheny はこれからどこへ向かうのだろうか?
 
 
 
 Pat Metheny が Lyle Mays と創り上げた多くの作品の中で、1984年にリリースされたPMGの"First Circle" には特別な思い出がある。
 1989年夏、アメリカがまだ憧れの地だった時代、バイクで東北1周の旅をした。当時暮らしていた大阪から日本海の海岸線に沿って秋田まで北上し、盛岡・青森市内を経由して下北半島大間崎で折り返し、八甲田・奥入瀬・ 十和田・花巻から三陸海岸に出て陸前高田・気仙沼と南下、宮城県遠田郡南郷町(現美里町)の友人実家に立ち寄った7日間の旅だった。その旅では80年代のPMGのアルバムを数枚持参しウォークマンでよく聴いていた。今でもそれらのアルバムと旅の思い出のいくつかのシーンがオーバーラップしている。なかでも、旅の初日に、笹川流れ(新潟県村上市)の海岸に張ったテントの中で、 "First Circle" の美しいメロディを聴きながら夕陽が日本海に沈んでくのを眺めていた時のことが、情景と音楽がセットされ心に深く焼き付いている。
 
 
 1978年 "Pat Metheny Group" から1993年 "The Road To You" までのPMGのアルバムは、今でもたまに聴きたくなることがある。自由に浮遊する情緒的な旋律で構成されるPMGの音楽を聴くのも、時には日常の生活に彩を与えてくれる。
 COVID19に支配された2020年は Pat Metheny のアルバムをよく聴いた。いろいろな事が制限された息苦しさの中で、きっと心の中で自由な移動と別世界の空気を求めていたのだろう。 よく晴れた日の休日に海岸沿いの公園に出かけて行き、ビールを飲みながら Pat Metheny、 Lyle Maysと一緒にイマジネーションの旅を味わうのも、コロナの時代の日常の記憶としてそれほど悪くないと思った。
(MG)


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