緊急事態宣言下の6月、東京都内映画館が再開された最初の金曜日、日本橋TOHOシネマに立ち寄り、日本での公開が開始されたばかりの "American Utopia" を観た。
元 Talkng Heads のリーダー David Byrne のブロードウェイでのショーを奇才 Spike Lee が監督した映画だ。アメリカでの公開はパンデミックにより配信のみだったようだが、日本では5月初旬公開延期からようやく映画館での上映が実現した。
「大絶賛」の文字が躍るプロモーションとは裏腹に、それほど期待していた訳ではなく、シアターに行き大きな音で音楽を聴くことへの渇望がこの映画を選択した理由だった。
Talking Heads のライブを観たのは1982年4月のこと。キャパ2000人にも満たない千葉文化会館にニューヨークのニューウェイブバンドがやってくるのが話題になった。Tina Weymouth(Bass),Chris Frantz(Drums)夫妻の別ユニット TomTom Club とTalking Heads の2部構成のステージは、正直ほとんど記憶に残っていない。ダンスミュージックをクラシック音楽のように着席して静かに鑑賞したためだろうか?
1980年にリリースされた Talkng Heads の4枚目のアルバム"Remain in Light"は、都会的に洗練されたアフロビートが斬新で、コマーシャルなディスコミュージックの対局にあるダンスミュージックとして感銘を受け、当時はそれなりによく聴いていた。だが1984年の"Stop Making Sense"をピークに Talking Heads は徐々にMGの関心の対象から外れていき、91年の解散後は彼らの楽曲を聴くこともなくなった。
映画“American Utopia”で久しぶりに Talking Heads のナンバーに再会した。80年代当時は前衛的でエキセントリックな印象があった Talking Heads の代表曲は、2021年パンデミック下のシアターで聴くと普遍的なスタンダードナンバーのように心地よく感じた。
ブロードウェイで上演されたショー "American Utopia" は、David Byrne と11人のアーティストが繰り広げるマーチングバンド形式のパフォーマンスだ。舞台上は一切機材を設置せず、素足のミュージシャン達が自由に動き回りながら奏でるリズムに魅了された。前衛指向の美術大学生臭が鼻につくこともあったDavid Byrneも、40年近い年月を経てより自然にリズムとアートの融合を体現しているように見えた。Talking Headsの呪縛から逃れ、南米やカリブ地域などのミュージシャンとの自由な交流が独善的な個性を洗い流し、穏やかで懐の深いアーティストに変化させたのかもしれない。
心和むラブソング"This Must Be The Place (Naive Melody)"の後、"Once in a Lifetime"が始まった瞬間、不思議な感覚に襲われた。飛び跳ねるリズムに合わせて、David Byrne が痙攣ダンスを踊り、時間を超越した空間が出現する。字幕に表示される歌詞の世界が躍動するマーチングバンドのパーカッションの鼓動と一体となって、不覚にも諸行無常的恍惚?に導かれてしまった。
"Once in a Lifetime"では、自分の居場所が分からなくなり困惑している人間のことが歌われている。
You may ask yourself, "What is that beautiful house?"
You may ask yourself, "Where does that highway go to?"
And you may ask yourself, "Am I right? Am I wrong?"
And you may say to yourself, "My God! What have I done?"
そしてその困惑に対して応えるようにコーラスが続いていく。
Letting the days go by, let the water hold me down
Letting the days go by, water flowing underground
Into the blue again after the money's gone
Once in a lifetime, water flowing underground
* * * *
1960年代前半生まれの我々の世代も人生後半の節目が近づいてきている。もしかすると、これまでの生涯を振り返り自問自答することがあるかもしれない。
この道はどこへ続くのか?
自分は正しいのか?
自分は何をしたのか?
その問いに対する答えは、きっとこうだろう。
日々時は過ぎていく
水の流れに身を任せよう
それは昭和の偉大な演歌歌手が晩年に歌った最後の曲のメッセージに似ている。
(MG)
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