Column
Our Roots

 26 Feburuary, 2018    El Bimbo 〜オリーブの首飾り / Paul Mauriat
 
 1月から2月の半ばにかけて、オンラインショップでCDを大量購入した。2年前に行きつけのレンタルショップが閉店した際、一枚300円程の中古CDを、Rock,Jazzは勿論、様々なジャンルから興味があるものあれもこれもと買っていったら、気づけばトータルで220枚お買い上げということがあったが、それ以来のCD爆買だ。今回はキャンペーン価格やクーポン、まとめて割、期間限定ポイント15倍、在庫僅か、などの文句に乗せられて5万円ほどを40枚弱のCDに費やすこととなったのだが、ジャンルはすべてイージーリスニングだ。  
 
 若い頃は心と体を揺さぶる刺激と感動を音楽に求めていたので、イージーリスニングに全く興味は無かったが、自室で文章を読む作業が増えるにつれ、ボーカルが入らず思考の妨げとならないイージーリスニングのよさがわかり始めた。音楽は第二の壁紙としても機能する。流れる音楽で部屋の雰囲気はがらりと変わる。無音であるということは逆にいえば生活音がすべて聞こえるということであり集中するのに時間がかかるが、作業に取り掛かる気分と環境のセッティングを、イージーリスニングは一発でキメてくれる。イージーリスニングにハマる大きな理由の一つはストリングスの豊かな響きであろう。イージーリスニングに使われるストリングスは、脳をリラックスさせると同時に活性化させ思考の流れをスムーズにしてくれる。ストリングスサウンドの広がりとともに、脳内で快感物質が分泌されていくのがわかる。2000年代以降様々なタイプのヒーリングミュージックが生まれてきたが、ストリングスの生音の幸福感はシンセサイザーでは再現できない。イージーリスニングは睡眠時と朝の目覚めにも欠かせない。近世ヨーロッパの王侯貴族は、夜眠る時に少し離れた部屋で楽士たちに自分が眠るまで小さな音で演奏を続けさせたという。今や我々はオーディオコンポとCDで専属の楽士をいつでも傍らに置くことができる。タイマーを使えば、朝の目覚めもまたしかりだ。
 
 イージーリスニングの多くが作編曲も手掛けるバンドリーダーに率いられたオーケストラによる作品だが、クラシックのオーケストラとの明らかな違いは多くの曲にエレキベースとドラムスが入っている点で、それによりイージーリスニングはPops,Rock,Latin等あらゆるジャンルの楽曲をカバーできる。今回、大量購入に至った訳は、昔のイージーリスニングの音源がここ数年で相次いでCD化されていることを知ったからだ。5、6年前まで、流通しているイージーリスニングのCDの数は限られていて、パーシー・フェイスやビリー・ヴォーン、レイ・コニフ、マントヴァーニなど入手できるものは聴き尽してしまった。昨年末、夜中のTV通販番組でフランク・プールセルのボックスセットがあるのを見つけ購入を考えていた時に、ついでにオンラインCDショップも検索してみたところ、様々なイージーリスニングのアルバムが新たにCD化されリリースされていることに気づいた。ちょうどキャンペーン期間だったことと、どうせいつかは欲しくなるのはわかっていたし、売切れたら再販はなさそうなので面白そうなものをすべてショッピングカートの中へと入れていき、最終的には購入枚数が40枚近くに達することになったという次第である。なぜ今になって1950年代から80年代にかけてのイージーリスニングの音源が続々とCD化されているのか?売れるからCD化されるのであろうし、どうして売れるのか?理由に関してひとつ思い当たることがある。勤務形態のここ数年の多様化で、在宅勤務、テレワークで働く人が増えていることと関係があるのではないかとOGは考える。つまりOGと同様に、自宅での仕事の環境づくりのためにイージーリスニングのCDを購入しているのではないだろうか?もうひとつの可能性としては、定年を迎え時間とお金に余裕のある団塊の世代が、昔を懐かしんでということが考えられる。いずれにしても埋もれた名盤が日の目を見るのはOGにとっては有り難いことだ。
 
 MOR( Middle Of The Road )とも呼ばれるイージーリスニングだが、今まで知らなかった多くのオーケストラとそのリーダーの名前を今回知ることができたのは大きな収穫だ。ドイツのウェルナー・ミュラーは明るく乗りの良いアレンジでOGの新たなフェイバリットとなったし、カラベリや101ストリングスのように名前は昔から知っていたが音は今回初めて聴いたものもある。イギリスのジェイムズ・ラストは名前も音も初めて聴いた。日本でイージーリスニングの代名詞といえばフランスのポール・モーリアだが、オリジナルアルバムを聴いてみると、日本で考えられているよりはるかにPops,Rockよりの楽曲が多いことに驚かされる。日本で売られているベスト盤は日本人の好みに合わせたおとなしめの曲を集めたものだということがわかる。ジャケットも白地や青地の中央に微笑むバンドリーダーのポートレートという日本盤とは異なり、それぞれの時代を反映したお洒落なものも多い。イージーリスニングは楽曲にハズレがないのも良い点だ。各時代のヒット曲がオーケストラごとに別のアレンジで聴けるのが楽しく、忘れられた隠れた名曲のメロディーが現代に甦り新鮮に響く。この調子だとCD化されていない音源のリリースは続きそうだし、OGのイージーリスニングの旅もまだまだ終わりそうにはない。最後に今回購入したCDの中のお気に入りのジャケットと、一曲だけを選ぶのは到底不可能なので、日本人にとってのイージーリスニングの大定番、ポール・モーリアの「オリーブの首飾り」(昔はマジックショーのバックで必ず流れていたやつだ)をイージーリスニングを代表する一曲として挙げて、このコラムを終えたいと思う。
(OG)


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