Column
Our Roots

 31 December, 2017    Search for the New Land / Lee Morgan
 
 
 
 年末にJazzが聴きたくなった。
 12月上旬を過ぎると比較的仕事が一段落するので、最近は毎年この時期は自分へのご褒美をする事にしている。  昨年の12月はプリミティブなロックを聴きまくったのだが、今年は何故か、いつも聴いているシンプルな形式美の8ビートではない、自由な旋律の応酬に浸りたい気分だった。昨年にも増して慌ただしかった2017年の締めくくりとして、酒とJAZZをゆっくり味わうことにしたのだった。
 
 
 12/15金曜日、南青山Body & SoulにFabian AlmazanとLinda Ohのデュオを聴きにいった。
Fabian Almazanはニューヨークを拠点に活動しているキューバ出身のジャズピアニスト。2014年米『ダウンビート』誌批評家投票で第1位に選ばれた84年生まれの若手実力派だ。 Linda ohもニューヨークを拠点にする女性ベーシスト。昨年はPat Methenyのツアーにも参加し、Blue Note東京にもやってきた。
 平日のBody & Soulは20時、21時半の2ステージ制、客席の入れ替えはないため食事とアルコールを堪能しながらゆっくりJazzに浸ることができる。この日の2人の演奏は素晴らしかった。 繊細で息の合ったデュオのインプロヴァイゼーションはスリリングかつロマンチックだ。Fabianの滑らかなピアノの旋律も美しかったが、小柄なLinda ohが小さな手が弾く豊かに飛び回るアップライトベースに魅了された。ピアノからベースソロに受け渡すタイミングでFabianのLindaを優しく見つめる視線が印象的だったが、この後2人が結婚を予定していると知って納得したのだった。

 
 
 NYの最新Jazzに浸った翌週末、「Jazz史に残る悲劇」のドキュメンタリー「私が殺したリーモーガン」(I called him Morgan)を観た。ハード・バップの代表的トランペッター Lee Morgan が内縁の妻Helenに射殺されるまでを、Helen本人やWayne Shorterなどのインタビューで振り返るドキュメンタリー映画の名作だ。
 フィラデルフィアで活躍していたLee Morganは19才でNYに活用の拠点を移しArt Blakey & Jazz Messengersの一員として人気を得るもヘロイン漬けになり61年に退団。独立後ギグのドタキャンを繰り返しNY Jazzシーンから姿を消す。そんなLee Morganを支え復活させたのはHelenだった。64年の” The Sidewinder” のヒット以後暫く2人の蜜月の日々は暫く続いたが、成功に酔いしれた20代のトランぺッターの生活は乱れ、72年NYのジャズクラブ「スラッグス」のステージ合間の休憩時間にHelenに拳銃で撃たれLee Morganは33才で生涯を閉じた。
 Lee Morganのトランペットは、Miles Davesの底なしで冷たく深い音色とは対照的に明るく華麗だ。ビルボード25位を記録した”The Sidewinder”はJazz Rockと呼ばれ、8ビートに乗って吹きまくるLeeのトランペットは文句なくカッコいい。その” The Sidewinder”が大ヒットする前に続けて録音されたアルバムが"Search for the New Land"である。映画ではアルバムタイトル曲がテーマソングとして効果的に使われ、スランプからの再起をかけたシーンやLeeの最後の場面が印象的だ。それまでの華やかでライトな彼のサウンドと異なり重く感傷的なのはピアノで参加しているHerbie Hancockの影響とも言われている。多分に映画の影響を受けているのだが、この曲の背景にある復活の予感と希望、LeeとHelenの波乱万丈の人生を思わずにいられない。アーティストが創造性を維持するために身を削りアルコールやドラッグの力も借りて刺激を求め、最愛の人だけでは満足できず新たなパートナーを追い求める。60年代はそんな時代だったのかもしれない。
 
 2017年も終わり新しい年が始まる。時代は変わり、創造性を維持するために自虐的な生活は必要なくなり、健康的な日常と芸術性は両立するようになったはずだ。60年代のカオスから革命的なカルチュアが創出したのは確かだが、不安と恐怖が世界に忍び寄る2018年、JohnとYokoのような平穏な生活から滲み出る優しさが求められると思う。
FabianとLindaはぜひ幸せになって欲しい。
(MG)


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