Column
Our Roots

 29 October, 2017    Time Goes Away / Garland Jeffreys
 
 2014年フジロックで27年ぶりの再会を果たしたGarland Jeffreys、その時の約束どおり再び日本にやってきた。
 10月7日〜8日に開催される朝霧ジャムのラインナップにGarland Jeffreysの名前を見つけた時、3年前と同様に歓喜と葛藤に揺れた。朝霧高原にテントを張ってGarland Jeffreysと富士山のエネルギーを全身に浴びたい誘惑にかられたのだ。しかし、この週の2日間を富士山麓で過ごしてしまうと仕事に致命的な穴が開くのは目に見えていた。「お前のGarland Jeffreys愛はその程度のものだったのか?」「74才のGarland Jeffreysに会えるのは最後になるかもしれない」心が揺れ動いた。
 そうこうしているうちにBillboard Live 東京での単独公演が発表された。70過ぎてもNYの小さなアパートメントで暮らすストリートロッカーに上品で人工的な東京ミッドタウン は似合わないが、朝霧ジャムに参加できない悔しさとその分の交通費を節約できたという錯覚から、1stと2ndの2ステージとも予約することにしたのだった(その後 ”横浜Motion Blue” でのライブも発表された)
 
 "14 Steps To Harlem" 2017年彼の11枚目のアルバムがリリースされた。(70年のGrinder's Switch を数えると12枚目)彼のキャリアの集大成ともいうべき作品に仕上がっている。中でも娘のSavannah Jeffreysとデュエットで切々と人生を歌いあげるバラードTime goes awayが好きだ。
 
 「一番のメインテーマは、過去を振り返ること、感謝すること、時間は過ぎるもの(Time goes away)で、今あるものは、手元にある今の内に楽しむべきと認めることだ。私は大物スターにはならなかったが、この音楽キャリアと人生において大変幸せで楽しい思いをしてきた。そういったことを音楽でも表現したいと思ってきた。」(Billboardガーランド・ジェフリーズ来日記念インタビュー)
 
 
 Billboard Live 東京のステージ横側の3階カジュアルエリアから 1stステージを堪能した後、食事をとることにした。21時を回ると東京ミッドタウンのレストランはほとんど閉店しており、ガレリア地下でやっと見つけた店で食べたマクドナルドの4倍もするハンバーガーの味がもうひとつで、気分が滅入ってしまう。2ndステージに備えて気分を盛り上げるため、旧友との再会を噛みしめながらビールを飲むことにする。彼のパワフルなステージは素晴らしかったが、いまひとつ盛り上がらない観客が感動を半減させていた。会場を出るとき耳にした会話が心に引っかかっていた。「知ってる曲は”Help”だけだったよ」
 
 21:30からの2ndステージ。会場は空席が目立ち更に不安になる。74才の Rock’N’Roll Adult はこんなセッティングで全力投球してくれるのだろうか?
 Garland Jeffreys 登場、1stステージ同様Velvet Undergroundの”Waiting for a man”からスタートする。今度はステージ真正面2階特等席、カウンター越しにはっきり見える彼の鬼気迫る表情は、そんな不安を吹き飛ばした。”The Contortionist”, "When You Call my Name" と1stステージと同じセットリストで進んでいくが、会場の熱気は明らかに違っていた。人数は少ないが本当のコアなファン達の歓喜がメンバーに伝わり、歌と演奏は熱を帯びてくる。彼の方も最前列のテーブルに片足を載せたり観客の禿頭をしつこくなぜたり、気取ったミッドタウンの人々の本性を暴こうとするかのように下品なパフォーマンスを繰り広げる。1stステージではやらなかった”Mystery Kids”では情感だっぷりのストーリーテリングが登場、続く "R.O.C.K" で会場総立ちとなりクロージングとなる。アンコールの "96 Tears" ではステージを降り1階フロア中央のテーブルの上に土足で立ち上がって会場全体を煽り、”Wild in the Streets” の大合唱でエンディング、拍手が鳴りやまない。最後はマネージャーが制す中1人で登場し、"Moonshine in the Cornfield" をワンコーラスだけ歌って90分の感動のステージが終わった。
 
 10代後半の頃から追いかけ続けているアーティストの多くは70代となった。時代を駆け抜け今でも創作活動を続けている者もいれば、去っていった者もいる。John Lennon, Bob Marley, Joe Strummer, そしてLou Reed。今回のライブに登場したアーティスト達だ。 きっと彼らの魂はGarland Jeffreysに託され、そのシャウトの中に亡霊のように浮かび上がっていたに違いない。老いて枯れる前に散るのがロックミュージシャンの本望だった時代は遠い過去になり、寿命が尽きる直前まで彼はライブを続けてくれるだろう。とんでもない世の中を生き残り、ロックの魂を同時代に届けてくれる Garland Jeffreys に再会できた喜びの余韻に浸りながら、人気の無くなった東京ミッドタウンを後にしたのだった。
 
 Time Goes Away
 Till you don’t have many
 Till you don’t have any
 As quick as a wink
 Quicker than you think
 
Garland Jeffreys 2017 "Time Goes Away"
(MG)


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