Column
Our Roots

 30 April, 2017     4th of July, Asbury Park(Sandy)/ Bruce Springsteen
 
 4月中旬、3年ふりに米国への出張があり、最初に New Jersey の Summitに6日間滞在した。Summit はマンハッタンからハドソン川を渡り西に10数マイルの所にある林に囲まれた閑静な住宅地だ。ESTABLISHED 1868と記されている古風な GRAND SUMMIT HOTEL からオフィスのある Berkeley Heights にシャトルバスで毎日往復し、夜は閑散とした Summit 駅周辺のレストランで食事をとった。
 
「Summit 駅の近くにおいしいステーキ屋がある」
夕食の店を探すのに苦労している事を伝えると、現地スタッフ Gregg が教えてくれた。
「あとは、シーフードの店もお勧めだ。New Jersey の海で採れた魚を料理してくれる。このあたりと違って New Jersey 東部にはビーチがあってボードウォークが有名だ」
「そうだね。ここに来るまでは、Bruce Springsteen の歌詞を聴いて New Jersey は海沿いの街をイメージしていたよ。」
New Jersey のボードウォークと聴いて思わず Bruce Springsteen を引き合いに出すと、驚いたことに Gregg も Springsteen の大ファンで、話が一気に盛り上がった。Springsteen の地元の New Jersey のオフィスでも、その話題に乗ってきたスタッフは Gregg が初めてだった。
「レンタカーを借りて Asbury Parkに行ってみろ。歌詞にでてくるりマダム・マリーの占い小屋が今でもボードウォークにある」
実際はそんな時間が取れるわけもなく、Asbury Park もシーフード料理屋も行かずに Summit を後にしたのだった。
 
 
 4/14、Manhattan のミッドタウンに移動してホテルにチェックインした後、現地スタッフとのディナーのため、New Jersey のHoboken に向かった。 Hoboken は Frank Sinatra の生まれた場所として有名な、ハドソン川を挟んだ Manhattan 対岸の街だ。
 ミッドタウンのホテルから Hoboken に行くには、地下鉄で Pennsylvania Station に出て PATH という路線に乗り換えるのだが、表示が不親切で10分近く駅の構内を彷徨った。結局は Penn Station から外に出て2ブロック歩いた地下に PATH の乗り場があったのだが、我々が駅を離れた10分後に Penn Station 駅構内でパニックが起き怪我人がでた事を後で知った。構内マップの "PATH 方面" の小さな表示を見つけるのがもう少し遅れれば、この騒ぎに巻き込まれていたかもしれない。
 
Panic at NY's Penn Station: 16 injured in stampede over false reports of gunfire
 
 
 4/15帰国する前に少し時間があったので、Lower Manhattan あたりを散策することにした。よく晴れた春の日差しの中、One World Trade Center の颯爽とした姿が眩しく感じられる。Hudson Eats という新しくできたフードコートで昼食をとった。窓の外からハドソン川対岸のNew Jersey の街がよく見えて、とても気持ちがよい。対岸の Jersy City からは米国一高いこの One World Trade Center がハドソン川をはさんで良く見えるはずだ。2001年9月11日あの日、対岸の New Jerseyから崩れる落ちるツインタワーを見ていた人々はどのような思いを抱いていたのだろうか?
 
Bruce Springsteenは 911直後にRisingというアルバムを作った。そのアルバムに Empty Sky という曲がある。
   
 I woke up this morning
 I could barely breathe
 Just an empty impression
 In the bed where you used to be
 I want a kiss from your lips
 I want an eye for an eye
 I woke up this morning to the empty sky
 
 Empty sky, empty sky
 I woke up this morning to an empty sky
   
 今朝目覚めたとき
 ほとんど息ができなかった
 あなたがいるべきベットには
 あなたの寝ていた跡だけ
 あなとの唇にキスしたい
 目には目を 見つめあいたい
 今朝目覚めたとき
 そこには空しか見えなかった
 
 Empty Sky  Empty Sky
 今朝目覚めたとき、そこには空しか見えなかった
 
 (Empty Sky 訳:三浦久)
 
 
 Greggが言っていたマダム・マリーの登場する Bruce Springsteen の曲は、"4th of July, Asbury Park(Sandy)" のことだ。1973年にリーリースされた2ndアルバムに収録されているとてもロマンチックなバラードだ。海岸の街に打ちあがる花火、桟橋の灯り、オーロラ、ボードウォークに集まる若者達をバックに Sandy への想いが歌われる。そこには、ほろ苦くも楽観的で自由なアメリカがある。1973年に歌われたその世界は、もしかすると今は失われてしまったかもしれない。今回レンタカーを借りて Asbury Park に行ったとしても、おそらく特別な感慨は抱かなかっただろう。人は成長し年老い街は新しくなり世界は動いていく。その瞬間が歌に封じ込まれ、我々は歌の世界に入り込んで共感していくのだ。20代のSpringsteenがボードウォークで感じた情景が見たくなった時は、目を閉じて”4th of July, Asbury Park(Sandy)”を聴いてみればいいと思う。
 
 4/15午後からホテル周辺で Trump の納税申告書の公開を要求する抗議デモ(Tax March)が行われるので早めにJFK空港に向かうよう連絡があり、タクシーで Manhattan を後にした。とてつもなく疲れた出張だったが、平穏な New Jersey Summitの街と New York の混沌とした2017年の空気を肌に感じることができた。帰国したらGreggが思い出させてくれたあの時代の曲にゆっくり浸ることにしようと思いながら深い眠りについたのだった。
(MG)
 
 


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