Column
Our Roots

 30 November,2015    Treat me right/Eric Sardinas
 
 Eric Sardinasをご存じだろうか。1970年生まれのBlues-rockギタリストであり、OGが現在、唯一新譜が出たら欠かさず購入するアーティストである。細かいウェーブのかかった長い黒髪に、大きな銀細工で飾られたテンガロンハット、彫りの深い精悍な面構えと筋骨隆々とした肉体は、ミュージシャンというよりバイオレンス・アクションムービーのタフガイのようだ。白人だがラテンアメリカの、もしくはネイティブ・アメリカンの血が流れているのではないかと思わせる容貌だが、情報がなく正確なところは分からない。
 SardinasのBluesは、多くの人がイメージするB.B.KingやEric Clapton, Stevie Ray Vaughnのような、歌のパートではギターをあまり弾かない、ブルーノートスケールの情感溢れるギターソロと、シンプルな音構成が生む余韻が魅力のBluesとは趣きを異にする。初期のDelta Bluesのミュージシャンが用いた、金属の反響板を持つリゾネーターギターをマーシャルアンプにつなぎ、放たれるオープンGチューニングの歪(ひず)んだスライドギターの豪快でスピード感溢れるスリリングなサウンドと、咆哮に近い野性的な歌声は、暴れまわる牛馬を御するロデオを観るかのようであり、分厚いバッキングと、独特な金属的響きを持つ流麗かつパワフルなギターソロが、初期のBluesが持っていたプリミティブな乾いた情緒を新しい形で現代に甦えらせる。彼の楽曲はBoogie ,Blues rock, Country, からHard rockよりのものまで、典型的なBluesの枠には収まらない。多くのギタリストを魅了したBluesの持つ哀感、陰の部分よりも陽の部分に焦点が当てられ、エネルギーとパワーがほとばしる。どのアルバムにも収録されている、アンプを通さない昔ながらのアコースティックなリゾネーターギターのソロも秀逸で、“クロスロード”を吹き抜ける一迅の風のような風情があり、BluesのLegend達への敬意を感じさせる。実際、彼の鍛えられた逆三角形の背中には、“RESPECT TRADITION”の文字とガラガラ蛇の巻きついたリゾネーターギターのタトゥーが刻まれている。
 ほとんどのアーティストにあるシグニチャーソングを持たないのがSardinasの特徴かもしれない。“この一曲”がない代わりに、リリースされたすべてのアルバムにつまらない曲は一つもない。おそらく彼は曲のためにギターを弾くのではなく、ギターを弾くために曲を書いているのだ。曲は器(うつわ)にすぎず、メインはギターサウンドでありギタープレイなのだ。伝説のブルースマンRobert Johnsonは“十字路(クロスロード)で悪魔から魂と引き換えに比類なきギターテクニックを手に入れた”とされる。おそらくSardinasのスライドギターにも、そうした悪魔が宿っていて、一度その魔力に捉えられたら二度とその呪縛から逃れることはできないのだ。そういう訳でSardinasの代表曲を一曲だけ上げるのは至難のわざなのだが、最後に、デビューアルバムのオープニングを飾るタイトルチューンで、イントロのリフがElmore Jamesを彷彿とさせる3連ミドルテンポのタイトなBoogie、“Treat me right”を紹介して今回のコラムを終えたいと思う。
 
(OG)
 
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