Column
Our Roots

 29 October,2015    Town Called Malice/The Jam
 
 
 「Paul Weller のライブに行く」
オンライン英会話40代のフィリピン人Linoに話した。すると彼はPaul Wellerのプロフィールを検索し、「Oh! Style Council!」と言って、“You're the Best Thing”を歌いだした。30代のArdlinもStyle Council なら知っていると言う。40年近いキャリアのあるPaul Wellerの中で最もポピュラーなのは、80年代MTVに露出していたThe Style Councilである事に気づかされた。
 
 10月14日、Zepp DiverCity 東京。
開演20分前、オールスタンディングの会場にたどり着く。ステージ左側PA前の場所を確保しビールで一息ついていると、Paul Wellerがバンドを従え勢いよく登場した。”Come On/Lets Go” ギターをかき鳴らすモッド・ファーザーは57才とは思えないほど若々しくイカしてる。最新アルバム、”Saturns Patterns”からの3曲で2015年版Paul Wellerを見せつけた後、Old songとの紹介でThe JamのBoy About Town”が始まった。
 
 1982年6月、中野サンプラザでThe Jamのライブを観た。ラストアルバム”The Gift”リリース直後の3度目の来日だった。同年1月のClashのライブがあまりにも素晴らしかったせいか、この時のJamは観客もバンドも大人しく冷めた感じがして、何か不完全燃焼だった記憶がある。演奏も一体感があまり感じられなかったのは、解散直前の影響があったのかもしれない。
 このコンサートの印象の悪さは他にも理由があった。この時はOGと2人で観に行ったはずが、知り合いの女性とその友人も偶然?会場に来ていた。ライブ終了後何となく合流する事になったのだが、彼女たちが突然「財布がない」と言い出した。バックを置いて席を離れた時に盗難にあったらしい。当然ライブ終了の余韻も吹き飛んでしまい右往左往する事になった。最後の貴重なJamの来日であったが、そんな事件もあってとても後味の悪い思い出しか残っていない。
 
 82年当時の洋楽はベストヒットUSAに代表される米国音楽産業のプロモーション中心でREO Speedwagon やSurvivor なんかがヒットしていた時期だ。その一方で英国Rockの最新曲を聴く機会は極端に少なかった。その頃パンクやらニューウェーブやらで混沌としたUKロックは何が出てくるか分からない面白さを感じていた。それで土曜深夜のラジオ関東でオンエアされていた「全英TOP20」(DJ大貫憲章)を暇で眠くない夜には何気なく聴いていたのだった。そんな頃、82年冬の寒い夜、全英第1位のアナウンスとともにラジカセから流れてきた曲に耳を奪われた。"Town Called Malice"、それがJamとの出会いだった。モータウン風メロディーを英国ビートに乗せたその曲を聴きながら、遥か彼方の英国 Woking の絶望的な日常と微かな光に思いをはせた。 Jamのラストアルバム”The Gift”がリリースされるとすぐに手に入れ、それからデビューアルバム”In the City”まで遡り、Paul Wellerの若々しく青臭い世界観と威勢のいいギタービートが大好きになった。
 
 Zepp Divercityのステージ。Style Councilのナンバー” My Ever Changing Moods”がフィリピン人もびっくりしそうなエッジを効かせたギターで演奏される。Saturns Patterns からの曲を中心に、1st ソロアルバムや"Sonik Kicks" からのナンバーが会場を熱く包み込んでいく。クロージングで演奏されたのは、Jamの "Start!" 。30年前の中野サンプラザより、現在のPaul Wellerの方がエネルギーに満ち溢れて見えた。円熟、ノスタルジー?そんな思いを微塵も抱かせないかき鳴らすギターと青筋シャウトが心地よい。 2度目のアンコール、82年のJamの大好きなバラード"Ghosts" に続いてその30年後リリースの "Be Happy Children" と続き、ラストはあの寒い夜に出会ったNo1ヒット "Town Called Malice"
 
 ワイルドで繊細、ポリティカルなメッセージと青春賛歌、荒々しくかき鳴らすギターと洒落たソウルサウンド。Paul Wellerは両面性を持ちながらもずっとストイックに自分を貫いている。 老獪でクリティカルなロマンティストは57才になっても一貫したスタンスで走り続け、30年前の楽曲を現在に共存させて過去を懐かしむスキを与えない。Jamに出会ったあの時代を感傷的に振り返りる楽しみを吹き飛ばし、2015年のPaul Wellerの眩しさは、いつまでも変わらない Hevy Soul を感じさせた。
 
Cos time is short and life is cruel
but it's up to us to change
This town called malice.
 
(MG)




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