Column
Our Roots


 18 August,2013    I will wait / MUMFORD & SONS
 
 MUMFORD & SONS に憑りつかれている。彼らのステージの後ずっと・・・
 
 若手アーティストを熱心に聞かなくなったのはいつ頃からか?自宅のCDの棚を眺めても30年以上前のロックレジェンドばかり。時々出会うキラリと光る新人に対して、今までは「若いのに、なかなかやるね」と傲慢な態度で接していたかもしれない。しかしよく考えてみると、自分が10代から20代に出会ったそれらの多くの作品は、彼らがまだ青臭くギラギラしていた時に生み出されたものだ。
 7月23日、たった1晩だけ上映されたRidley Scottプロデュースの「Bruce Springsteenに魅了されたファン達」を描いたドキュメンタリー映画 "Springsteen & I" を見に行った。映画を見ながら、疾走感と閉塞感が同居する彼の音楽に衝撃を受けた16歳当時の自分を思い出した。その時の Springsteen はまだ29歳。20代のロックンロールスターにティーンエージャーが熱狂する、そんな出発点が必ずあるはずなのだ。
 
 "Springsteen & I" を観た1週間後の7月30日、MUMFORD & SONS のステージに行った。20代半ばのアーティストのライブに行くのはいつ以来だろうか?今や欧米各地の野外フェスでヘッドライナーを務める彼らは今回 Fuji Rock 出演のために来日し、この日1回限りの単独ライブが STUDIO COAST で行われたのだった。
 
 暗闇の中、1曲目の"Lovers' Eyes"  Marcus Mumford のギターとボーカルで静かに始まった。しばらく場内は暗いまま演奏が続き、最初のコーラスの終わった瞬間照明が突然点りバンドとホーンセクションが全開で唸り始めた時、思わず鳥肌がたった。4人のハーモニーがあまりに美しくて何故だか涙が出そうになった。
 
I'll walk slow
I'll walk slow
Take my hand
Help me on my way
 
 彼らに初めて興味を持ったのは、立ち読みした雑誌に書いてあった「ロンドン出身の若手カントリー&フォークロックバンド」というコメント。イギリスの若者がアメリカンルーツミュージックを革新的な音楽に変化させる事はよく起こる。ロックは1962年からずっとそうやって発展してきた。
 その後、Youtubeで検索した'Road To Red Rocks' からの"I will wait"に魅了された。上下左右に激しく全身揺れながらキーボードを弾くBen Lovett、バンジョーをロックギタリストのように振り回すCountry Winston Marshall、コントラバスを高々と担ぎ上げるTed Dwane、そして高い位置でマーティンをかき鳴らしながら猫背で遠くを見つめるMarcus Mumford。それは想像していた泥臭い長閑なカントリーではなく、上品ではあるけれどパンクロックに通ずる会場全体を巻き込んだ熱狂だった。
 
 STUDIO COAST でのステージ2曲目、テンポがアップし"Little Lion Man"が始まる。 ギターストロークに合わせてMarcusの蹴りだすバスドラとそれを追いかけるTedのベース、呼応して高速で走り出すWinston のバンジョー。歌の表現に合わせてバンドのリズムは自由に速度を変え、観客を巻き込む高揚感を生み出す。その縦ノリのビートはデジタルの機械的な世界とは正反対のエモーショナルなスピードの変化があり、懐かしさと新鮮な心地よさを感じさせる。
 3曲目は "Whispers in the Dark"。この曲にも登場する "serve the Lord","spare my sins for the ark" などの宗教的・文学的な表現は彼ら4人が協働で生み出す歌詞の特徴となっており、古典的なカントリーミュージックとは異なる洗練されたスピリチュアルな共感を生み出す。それが21世紀的な苦悩を抱える欧米の人々を惹きつけている理由かもしれない。この曲でも観客と詩とが一体になり、4人全員でハモる印象的なサビやエンディングのコーラスパートでは多くの観客が彼らと一緒に歌っていた。(外国人の観客が約2〜3割くらいいたと思う)
 
My heart
Was colder when you'd gone
And I lost my head
Let's live while we are young
While we are young
While we are young
 
 Marcus がドラムを叩き Winston がSGを歪ませて暴れまくるヘビーな "Dust Bowl Dance" でクロージングした後、アンコールでは4人が寄り添い、ほとんどPAを通さずに本当のアンプラグドで演奏が始まった。MUMFORD & SONS の曲ではないが、聞き覚えのあるメロディ。Springsteenの 84年発表のラブソング "I'm on Fire"が静かに歌いこまれる。彼らの生声・生音をかき消さないように、会場全体が静かなコーラスに包まれたのが感動的だった。会場のMUMFORD & SONS ファン達にとって、この曲にどんな思い出があるのだろうか?
 続いて同様の生音で"Where Are You Now?"で素晴らしいハーモニーを聴かせたくれた後、レギュラーなセッティングに戻り、Marcus の鋭いカッティングで "Babel" が始まる。最後は "I will wait"の大合唱で絶頂に達し、感動のステージは幕を閉じた。本当に素晴らしい夢のような夜だった。
 
 世界的ビッグネームとなったMUMFORD & SONSだが、2400人キャパの STUDIO COAST にも拘わらず、真摯に真剣勝負の演奏を見せつけてくれた。手の込んだ仕掛け満載のロックショーの演出とは無縁のシンプルでストレートなステージ。それは現在進行形で世界中の聴衆を魅了し続けている。
 カントリーミュージック?ブルーグラス?フォークロック?ジャンル分けには意味はないだろう。 彼らは2010年代の空気を吸って古くて新しいスタイルで自分達を表現し、時代は今この若者たちの音楽を求めているのだ。
 
(MG)
 



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