Column
Our Roots


 30 March,2013    Delta lady / Leon Russell
 
 2008年の春、MGに誘われてBillboard Live Tokyoに、かつて大好きだったけれど、その頃はあまり聴かなくなっていたアーティストのLiveを初めて観に行った。Leon Russell。肩までとどく銀色のざんばら髪に口髭、胸まで伸びたあご髭と、あと一歩で狂人かといった風情の妖しい輝きを湛えた眼差しは呪術師と見まごうばかりの、70年代初頭のロック史に燦然と輝くスワンプロックの雄でありソングライターである。
 
 出会いは中三の頃、レコード会社の販促用カレンダー。George Harrisonが主催したバングラディシュ・コンサートの一場面。青暗いライトに照らされたステージ中央にフォークギターを抱えたBob Dylan、左右後方にGeorgeとLeon。その歌声とサウンドを実際に聴いたのはしばらく後、高校に入ってからだった。Leonのベスト盤英文ライナーノーツにも書かれていてOGも全く同感なのだが、このチャリティライブのハイライトはLeonの“Jumping jack flash〜Youngblood”のメドレーだ。(もうひとつのハイライトはBilly Prestonの“That’s the way God planned it”でこれもまた素晴らしい。)
 Leonは黒人教会のゴスペルミュージックのミサのスタイルを、白人でありながらそのままステージに持ち込んだ。当時は解からなかったあのメドレーの高揚感の正体は、Leonの力強いピアノをバックに彼と女性コーラスとの掛け合いが生み出す、ある種の疑似宗教体験のようなものだったということが今はわかる。ロックの可能性を多くの人々が信じていた時代の残り香がまだ感じられたあの頃に、彼の音楽を体験できたのは、今考えると幸せなことである。難民救済がテーマのコンサートで輝いたのがLeonとBillyのゴスペルの流れをくむ2曲だったのは、当然なのかもしれない。
 
 Leonはソングライターとしても一流で、誰もが認める名曲“A song for you”や“The masquerade”はCarpentersの、“Delta ladyは、Joe Cockerの歌でも知られているが、OGとしてはやはりLeon本人のバージョンが一番好きだ。ガラスの階段を小走りに駆け降り立ち止まるかのような、あのピアノのイントロで始まる“A song for you”は、心のつぶやきや叫びがそのまま表われたようなLeonの高音域に特徴のあるしわがれた歌声と、ピアノとホルンのシンプルなアレンジが心に沁みる。
 自分名義のアルバムを発表する前に、Leonは様々なアーティストの多くの作品にサイドマンとして参加している。最近知って驚いたことなのだが、サーフロックで一世を風靡したVenturesの代表曲“十番街の殺人”(この曲は“無人島に島流しされるとしたら、持っていきたい100曲”に入るOGのfavoriteだ)で印象的なキーボードソロを弾いているのが、なんと!Leon Russellであった。
 では、Leonの曲で一曲だけ無人島へ持っていくならどの曲かと問われたら、迷いはするが“Delta lady”を選ぶと思う。Leonの作品の中でも最も明るく前向きなラブソングなのだが、この曲を聴くだけで青空のさらに向こうへ突き抜けていけるような高揚感や解放感と、それに付随するそこはかとない寂寥感が味わえ、薬物なしでも十分イケる(笑)。桑田圭介夫妻はLeonの熱烈なファンであることで知られているが、サザンの“思い過ごしも恋のうち”の終盤の言葉をたたみかけていく部分は、“Delta lady”の影響が感じられる。
 
 Billboard liveで観た、サングラスをかけたみごとな髭と白髪のLeonは、杖をつき歌以外では一言も言葉を発しなかった。妖しい呪術師の印象は薄れ、むしろ時間を超越した仙人の趣きであったが、歌声は以前と同様に力強かったし、動きの少なさとも相まってその存在は生きる化石シーラカンスを思い起こさせた。もちろんほめ言葉である。Coolなのだ。シーラカンスを見て太古の昔に思いをはせるが如く、Leonの姿に70年代前半アメリカロックシーンのかすかな幻影を垣間見た夜であった。
 
(OG)