Column
Our Roots


 26 February,2013    Live At The Grand Opera House Belfast / Van Morisson
 
 先週、仕事帰りに友人のホームグランド復帰ライブを見に行った。残念ながら友人の出演時刻に間に合わなかったのだが、フォーク好きの仲間が集まって個性のある演奏を繰り広げるアットホームなライブだった。
そのライブのテーマは「勇気をもらった曲」。それぞれのユニットが語る自分に影響を与えたフォークソングのエピソードは、心温まるものだった。ふと自分にとっての「勇気をもらった曲」は何かを考えてみると、真っ先に思い出したのは日本のフォークソングではなく、アイルランドのシンガー、Van Morrisonの歌声。
 
Van Morissonを知ったのは、映画"The Last Waltz"の中の"Caravan"。変てこなアクションとソウルフルな歌声は恐ろしくパワフルで強烈な印象だった。"The Last Waltz"のLP収録のRichard Manuelとのデュエット、"Tura-Lura-Lural (That's An Irish Lullaby)"は、今となっては涙無くして聞けない名演だが、アルバム全体の聴きどころが多すぎて、その時はVan Morissonが特別な存在になることはなかった。Van の中肉中背ルックスとド迫力のシャウトはまだティーンエイジャーだった当時のMGにはアクが強すぎて、なんとなく近づき難い存在だったのだと思う。
 
 
 Van MorrisonがMGの特別な存在になったのは、学生から社会人となるタイミングだった。1985年MGは新入社員研修終了後に大阪に赴任し、生まれて初めて寮生活を経験する事になった。その年は阪神タイガースが初優勝した年であり、その時の大阪は異常な程の盛り上がりをみせていて、関東からきた関西弁を話せない巨人ファンには、敵対的な視線が容赦なく浴びせられた。学生から社会人、自宅から寮生活、巨人から阪神といったあまりの環境変化に途方にくれたのだった。そこはまるでアジアの中のまったく別な文化圏に放り込まれたような感じだった。
(RJの気持ちよく分かります)
 そんな戸惑いの中、4畳半の和室の寮にJBLの小型スピーカーを持ち込んでよく聞いていたのは、日本の70年代フォークではなく、前年の84年にリリースされたVan Morrisonの”Live At The Grand Opera House Belfast” だった。ライブの中のVanの迷いのない力強い歌声は「信念の塊」のようにMGの心に響き、まさしく勇気を与えてくれたのだった。特にオープニングのイントロ”The Mystic”〜”Inarticulate Speech Of The Heart”に続いてVanが歌いだす ”Dweller On The Threshold” は、漠然とした不安に襲われていたMGを勇気づけてくれた。
 
I'm a dweller on the threshold
And I'm waiting at the door
And I'm standing in the darkness
I don't want to wait no more
 
I have seen without perceiving
I have been another man
Let me pierce the realm of glamour
So I know just what I am
 
Feel the angel of the present
In the mighty crystal fire
Lift me up consume my darkness
Let me travel even higher
 
VAN MORRISON, H. MURPHY ”Dweller On The Threshold”
 
 ”Live At The Grand Opera House Belfast”は、Vanのライブアルバムではあまり人気がない。Vanのライブとしては、初期絶頂期のRock&Soulスピリットに溢れた73年の”It's Too Late To Stop Now”(74年発表)やGeorgie Fameとの息のあった演奏が素晴らしい93年の”A Night In San Francisco” (94年発表)の方が、一般的に評価が高い。でもMGには、新しい生活を始めた中でほぼリアルタイムで聴いていたBelfastのライブに特別な思いがある。
 
 Van MorrisonはBritish Beat Band “THEM”の成功を投げ捨てて自分の理想の音楽を求め66年渡米し、“Astral Weeks” “Moon Dance” ”Tupelo Honey” ”Saint Dominic's Preview”などの名盤をリリースする。だが、その勢いの中行われた74年の大規模なヨーロッパ〜USAツアーの後、彼は重度の麻薬中毒となり、故郷の北アイルランドでの療養生活を余儀なくされる。その後Vanは隠遁生活に入り宗教色の強い内省的なアルバムを数枚発表、やがて宗教的理由による引退説が噂されるようになる。そんな中、彼は83年に北アイルランドBelfastで故郷の人々に向けてコンサートを行った。それがこの”Live At The Grand Opera House Belfast”である。このアルバムのVanの歌声は、渡米後必死に走り続けて消耗し宗教に救いを求めた後に到達した、「これからは自然体で我が道を行く」ことを宣言しているように聞こえる。
 
 
その後しばらくVanのアルバムをリアルタイムで聴く事はなくなってしまったが、89年の”Avalon Sunset” や90年以後コンスタントに発表してきた彼の作品の決してぶれない力強い歌声には今でも勇気づけられる。ネガティヴになった時その歌声を聴くと、「大きな河の流れの中で些細な事への拘わりがいつの間にか消えていく」ような感触がある。
 昨年は何人かのベテランアーティス達が良質なアルバムをリリースした。その中でもVanの4年ぶりのアルバムは、円熟の香り溢れるSoul, Blues, Jazzが心地よく、新しさはないけれどある意味で安心感のある素晴らしいアルバムである。Vanは40年以上頑固な作品を発表し続け、こちら側もやっと彼のペースに追いつき再びリアルタイムで勇気をもらえるようになった。
2012年の新作、そのタイトルもイカしている。
 
Born To Sing: No Plan B
「歌うために生まれてきた。他に道はない」
(MG)
 
 
 
 
 


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