Column
Our Roots

 31 August, 2017     Amelia / Joni Mitchell
 
「80年前、女性として初の世界一周飛行を目指す途中で消息を絶った伝説の米飛行士、アメリア・イアハートのこれまで公開されたことがなかった写真が見つかり、彼女の最期を巡る論議が再燃している。」
先月こんなニュースが目に留まった。
 アメリア・イアハート 1932年世界で初めて大西洋を単独横断飛行した女性飛行士だ。 彼女は1937年カリフォルニア州のオークランドから太平洋を東周りに世界一周飛行に向かって飛び立ち、南洋諸島周辺で連絡が途絶えた。彼女が何処でどのような最後を遂げたのか?現在に至るまで謎のままである。
 
 
 幼少期MGは飛行機を身近に感じて育った。家から2駅ほど離れたところに入間空軍基地があり、自衛隊機の飛行する音が普通に生活の中に溶け込んでいた。毎年父親に連れられて観に行った航空祭のブルーインパルスのアクロバット飛行も楽しみだった。当時ブラウン管の中に映し出されるピアノ線にぶら下がり不安定に飛びまわる円谷プロの自衛隊機とは違い、ブルーインパルスの圧倒的迫力ある飛行は単純にカッコよかった。
 
 20代になっても、羽田空港向かいの京浜島や伊丹空港そばの千里川土手に旅客機の離着陸をよく観に行った。ここ最近は、毎年5月に近所に設置される簡易滑走路から飛び立つ Air Race World Championship のプロペラ機を観に行くのが恒例になっている。
 幼い頃から「パイロットになりたい」などと思った事はなく、飛行機自体にも興味を持ったことはなかった。だが飛行機が大空に向かって離陸するのを眺めるのが好きだ。地上に存在する様々な束縛から自由に向かって舞い上がるかのような颯爽としたその姿は、いつみても不思議な美しさを感じる。
 
 
 アメリア・イアハートのことを知ったのはJoni Mitchellのアルバム "Hejira"(1976年リリース 邦題は「逃避行」)に収録されている"Amelia" という曲だ。Joni Mitchell の1979年カリフォルニアのサンタ・バーバラの野外ライブビデオ"Shadows and Light" の"Amelia" のシーンが大好きで何度も繰り返し観た。Joni MitchellのオープンCチューニングのギターにアメリア・イアハート本人の記録映像がオーバーラップする。大空に飛び立つアメリアと Joni Mitchell の弾き語りが交差し、Pat Methenyの浮遊するギターソロに引き継がれる。Pat のギターソロは Lyle Mays のキーボードとシンクロしながらフェードアウトし、Don AliasのパーカションとJoniのギターストロークで "Hejira" が始まる。 Jaco Pastorius の宙を彷徨うベースと Joni の歌う幻想的な "Hejira" のメロディはやがて Michael Brecker のテナーサックスと混ざりあい、流れるような "Amelia" 〜 "Hejira" の物語は終わる。
 
 Joni Mitchellの創造する音楽は、フォークソングやロック、ジャズといった音楽を棲み分けるカテゴリーから自由だ。Joni Mitchellの音楽を支配するのは彼女の存在そのものである。 "Coyote" の物語を聴く時、味付けは異なるものの、リズムセクションが Don Alias , Jaco Pastoriusd でも Levon Helm, Rick Danko であっても一貫して彼女の色に染めらた情景が浮かび上がるのだ。
 
 
 A ghost of aviation
 She was swallowed by the sky
 Or by the sea like me she had a dream to fly
 Like Icarus ascending
 On beautiful foolish arms
 Amelia it was just a false alarm
 
  ("Amelia" Joni Mitchell 1976 )
 
 
 2017年3月31日、Joni Mitchellは脳動脈瘤により意識不明となり生命の危機に見舞われた。その後回復に向かっているというが、以前のようにクリエイティブな活動はもう難しいかもしれない。だが太平洋の空に消えたアメリアのように、Joni Mitchell は彼女の名曲の数々と共にこれからも永遠の旅を続けていくに違いない。
 
(MG)