Column
Our Roots

 17 August,2015    Legong Semaradahana/芸能山城組
 
 夏の野外イベントは大好きだ。
とりわけ夏の日が暮れて暑さが和らぐ中、ビールを飲みながら夏に相応しい音楽を聴くのは至福のひとときだ。
 
 
 真夏のビルの谷間で開催される「ケチャまつり」に初めて行ってみた。芸能山城組が毎年新宿三井ビル55HIROBAで繰り広げるバリ島の「ケチャ」「ガムラン」などを中心とした芸能の祭典。 「共同体が崩壊した都市化の最前線で『人間社会の必須栄養素』ともいえる人類本来の『祝祭』を今の世の中にふさわしい形式内容で実現する」 「新宿超高層ビル街の只中にあえてインドネシア・バリ島共同体の神秘的芸能<ケチャ>を持ち込み、その異次元空間を現出するという実験に挑戦」というコンセプトで1976年に始まったこの祭りも、今年で40回目になるという。
 
 午後7時前会場に着き、広場中央の座布団席を確保する。この日は最高気温が38度近くまで上がったが、ビルに囲まれた55HIROBAは意外に涼しい。「大道芸 バナナのたたき売り」の間に「お休み処」でビンタンビールを買って席に戻ると、芸能山城組のガムランの演奏 "Yama Sari"(ヤマ・サリ) が始まった。実はインドネシアへ行った事はなく、ガムランの生演奏を聴くのは初めての経験だった。青銅や竹でできた装飾楽器をモザイク状にずらしながら奏でるリズムのアンサンブルが広場に響く。普段馴染んでいる『A=440Hz』とは異なるガムランの音階は、なぜか懐かしく心地よい。"Legong Semaradahana"(レゴン・スマラダナ)、女性2人による舞踊は煌びやかで優雅だ。愛の神スマラと月の女神ラティの物語、最後に登場した魔女ランダの踊りは迫力がある。妖艶な舞い、青銅打楽器からの倍音の洪水とビンタンビールが優しく溶け合い、真夏の副都心の夜に先祖の精霊を傍に感じたような気がした。
 
 この日は予定があり残念ながら最後のケチャのパフォーマンスは観れなかったが、荘厳なガムランの神秘的演奏を堪能した。芸能山城組の「都市における祝祭の再生」の試みとして、40年近く無料の演奏会を副都心のビルの谷間で継続している事は奇跡であり大いに感銘を受けた。来年の夏はたっぷり時間をとって、芸能山城組の考える『人間社会の必須栄養素』をゆっくり味わいたいと思う。
 
(MG)
 
※注 「『第40回 ケチャまつり』パンフレット」「芸能山城組ケチャまつり40年の歩み」より
 


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