Column
Our Roots

 31 December,2014    Helpless / Neil Young
 
 静かな年末を迎えている。 Neil Youngを聴きながらこの1年を振り返っている。 今年11月にリリースされた "Storytone"。 92人編成のオーケストラとのライブ録音が、穏やかに メッセージを運んでくる。
 
 2008年4月、約30年ぶりにアコースティックギターを購入した。きっかけは前年12月の年末ライブでの幸町バンドのステージへの飛び入りだった。極度に緊張して出来栄えは散々だったが、演奏する楽しさを思い出し漠然と音楽を再開しようと考えていた。当時持っていたのは音の鳴らないGrecoのストラトキャスターと寮の先輩が退寮時に置いていったMorrisのフォークギター、それも再会した先輩が懐かしがったのでMorrisは返すことになっていた。それで、いよいよ真剣にギターを練習するために、それなりのギターを手に入れようと考えたのだった。
 御茶ノ水の楽器屋を巡り、たどり着いたのがヘリンボーンのMartin D28、その音に魅了された。自分の求めていたアコースティックギターはこの音だと感じた。それは、Neil Young のストロークの響き。
 
 初めて聴いた Neil Youngのアルバムは、1978年の "Comes a time"。 Nicolette Larson とのデュエットが爽やかなカントリーテイストのアルバム、アコースティックギターの音に驚いた。複数のアコースティックギターを重ねカナダの草原のそよ風のように爽やかで心地よい音色。癒される音楽だった。ところが翌79年リリースされた "Rust Never Sleeps" は、暗く殺伐としたアコースティックギター弾き語りで始まるが、レコードB面はCrazy Horseをバックにエレクトリックギターの爆音が響いていた。続く "Live Rust" でも、ライブでのアコースティックギターと爆音ギターの落差がおもしろかった。だが、その後はテクノやロカビリー、元祖クランジ(的な)ロックなど振幅の幅が極端に広がり、その混沌とした世界はコンセプトとして共感できるが、激しく歪んだギターのグルーヴのないサウンドを心底楽しむ事ができず、初期の彼のアルバムを遡って聴くようになった。70年代の彼のアルバム、特に"After The Gold Rush", "Tonight's The Night", "Zuma" は今でも大好きなアルバムだ。 結局、アコースティックギター1本でセンシティブに自分と向き合う弾き語りが彼の原点だと思う。今でもNeil Young は穏やかなアコースティックギターサウンドに周期的に回帰する。Martinを抱えて崖っぷちを歩くように不安定に歌う彼の世界にとても惹かれる。69歳になっても青年特有のデリケートで傷つきやすい記憶の断片が詩の中に顔をだす青臭さが彼の魅力だ。
 
"Helpless" は中でも特別な曲だ。プライベートなメッセージが多い彼の詩の中で、誰もが目にしたことのある情景に思いを込め普遍的な美しさに昇華させた名曲だと思う。単純な3コードにのせたシンプルな歌詞は心に刻まれ、濃紺の夜空に浮かぶ月明かりを眺めてると、この詩のメロディーが浮かぶ事がよくある。
 
 
There is a town in north Ontario,
With dream comfort memory to spare,
And in my mind
I still need a place to go,
All my changes were there.
 
Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.
 
Leave us
Helpless, helpless, helpless
Baby can you hear me now?
The chains are locked
and tied across the door,
Baby, sing with me somehow.
 
 
 "Helpless" はCrosby, Stills, Nash & Young の70年のアルバム "Deja Vu" に初めて収録された。映画「いちご白書」の体育館のシーンも有名だが、なんといっても印象に残るのは映画 "The Last Waltz" での演奏シーン。この曲ではカナダからアメリカを目指したミュージシャン達が主役だ。サザンオンタリオのオムニーで少年時代を過ごし、就労ビザも持たず中古のポンティアックの霊柩車でロスに向かった Neil Young。カーテンの裏でコーラスをつけるのは、オンタリオのトロントで音楽活動を開始しニューヨークに渡った Joni Mitchell。ブルーのシルエットが幻想的で美しい。バックで微笑むのは、The Band のRobbie Robertson 、Rick Danko。オンタリオからアメリンミュージックのルーツを探す旅に出た。それぞれ、どんな思いを胸にこの曲を歌い演奏したのだろうか?
 
2014年12月31日夜、外に出ると今夜も月がきれいに輝いている。冷たい風が吹き荒れ、元旦から雪が降るかもしれないという。
除夜の鐘までもうすぐだが、自分の中で今年起きたいくつかの事ことがまだ整理できていない。
もう少し、Neil Young を聴いてから新年を迎える事にしよう。
 
(MG)