Column
Our Roots


 30 April,2014    Lightning Bolt / Jake Bugg
 
 4月10日、Bob Dylan のライブを観た。 4年ぶり7回目の来日公演。バンドは前回とほぼ同じメンバーが予想され会場も同じZepp Tokyoという事もあって、「2010年の時とそれほど変わらないかもしれない」と躊躇しているうちにチケットはソールドアウトとなった。だがその後追加公演の発表があり心が動いた。「生きているうちに彼と会える機会も、そう多くはないかもしれない。」と思った。なんといっても、彼には中学3年からお世話になっているのだ。
 事前の勝手な予想を大きく裏切り、その日のステージは今まで観たDylanの中で最も感動的な素晴らしいパフォーマンスだった。バンドはDylanの詩に呼応し、Dylanの不器用なキーボードは躍動するバンドに融けこんだ。セットリストは過去のスタンダード集ではなく、2012年リリースされたTempestからの曲が中心に歌いこまれ、未だ現在進行形で進化し続けるアーティストである事を実感した。年々ひどく潰れていくダミ声で情感たっぷりに歌いこまれた"Long And Wasted Years"を聴きながら、デビューから50年以上の歳月が流れてもなお現在に語りかけるBob Dylan を観れて本当によかったと思った。
 
 
 Dylanのステージの20日後の4月30日、再びZepp Tokyoに足を踏み入れた。もうすぐ73才となるBob Dylan の半世紀後に生まれ最近20才になったばかりの若者、Jake Bugg。会場は彼と同世代の10代〜20代前半がほとんどで、会社帰りの50代にはちょっと居心地が悪かったが、彼のようなビンテージロックに若者が集まってることは素直にうれしかった。
 
 Jake Buggを最初に知ったのは音楽誌の記事だったか?2012年リリースした18歳のデビューアルバムが全英1位となり昨年は2度来日、日本の音楽誌でも注目されるようになっていた。きっと何らかのレビューをどこかで読んだのだと思う。そんなようなきっかけで何気なくYouTubeで観た "Lightning Bolt"には驚かされた。まるで モーターサイクル事故につき進む60年代のDylanのように、言葉を早口で叩きつけていく。ギターは鋭角にカッティングされ、ロックンロール初期の高揚感を漂わせていた。そして1st アルバムの"Jake Bugg",2nd アルバム"Shangri La"を手に入れると、いよいよ彼に魅了された。2013年という時代に10代の若者が65年"Subterranean Homesick Blues"のようなシャウトを響かせていたのだ。
 ステージはJake Buggの歌が全てであり、曲を進行させるためのギターカッティング、ベース、ドラムスの3人だけの編成。コーラスなど余計な飾り付けは何もない。(何曲かでは少年のようなギターソロを披露した)"Pine Trees","Broken"などのギター1本の弾き語りは、彼の詩に込めた思いが透きとおった声にのって会場に充満し感動に包まれた美しい瞬間だった。
 
 Jake Bugg はNottingham のCliftonにある英国最大のCouncil Estate(低所得者用公営住宅)で育った。ロンドンオリンピック前には20%を超えていたイギリスの若年層(16〜24歳)の失業率にあるように、Council Estateに住むワーキング・クラスの若い世代は現在厳しい状況にある。Jake Bugg の詩には、挫折しながらも現状から抜け出そうとするシーンがいくつか登場する。そこには希望も失望もない。あるのは彼らの世代の避けてとおれない現実である。彼は2010年代の現実に向き合いながら湧き上がる感情を素直に誠実に歌っており、それが国や世代を超え共感を巻き起こしているのだろう。彼の未来はどこに向かっているのかは誰も分からない。だがNottingham のCouncil Estate に繰り広げられていた重苦しい日常から抜け出し、日本のティーンエージャーへ感動的なライブを届けている。(70年代からBob Dylanを聴き続けているエイジズへも)
 Liveの後改めて"Broken"を聴いた。時代や世代を超越した普遍的な美しさが心を突き抜け、天に向かって浮遊していくのが見えた。
(MG)
 



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