Column
Our Roots


 29 May,2013    Thunderstruck / AC/DC
 
 世の中には面白い音楽がたくさんあって、それまで興味のなかったアーティストや楽曲が、ある時を境に急に気になりだすといったような経験は、誰にでもあることだと思う。AC/DCはOGにとってそういったバンドの一つである。
中学時代から存在は知っていたが、友人達との間で話題になったのは、半ズボン、スクールボーイの制服でSGを掻き鳴らすギタリストAngus Youngの姿であり、AC/DCとは両刀使いの意味でもあるらしいといった、大人の世界に首を突っ込み始めた少年たちが喜びそうなそうした表面的なことであって、当時実際に彼らの曲やサウンドをちゃんと聴いた記憶はほとんどない。
 
 AC/DCがOGの中で特別な意味を持ち始めるのはそれから15年後、30代にさしかかる頃、目覚まし代わりにかけていたFENから流れる聴いたことのない超強力なロックナンバーを耳にした時である。湧き立つ積乱雲の中のチリチリとした放電を想起させるギターの高速アルペジオと不穏な空気を醸し出すバックコーラス、遠雷を思わせるバスドラ、イントロにベースが絡み、大きな渦に巻き込まれ始めていることに気づく頃にはもう遅い。数十秒後、雷神の如くドラムス轟き、ギターの閃光炸裂するロックンロールの大竜巻にあなたは巻き込まれることになる。それが“Thunderstruck”だ。
 
 ハードロックというカテゴリーに分類されるのであろうが、AC/DCのサウンドの特徴であり根底にあるのは、曲のタイトルや歌詞にも度々登場するようにRock'n'rollであり力強いミドルテンポのBoogie、R&B、Bluesである。それが我々の遺伝子に組み込まれた肉食系の本能を強烈に刺激しドライブさせる。アルバム“Black ice”の発売に合わせた2009〜10年のワールドツアーを埼玉スーパーアリーナで見たが、ハードロックバンドにありがちなステージ構成に変化をつけるバラードなんぞは一曲もない。アルバムとライブのオープニングナンバーであり、ステージセットのモチーフにもなっている“Rock'n'roll train”は、一度火を焚きつけ走り出したら止められない。感傷的な叙情性など置き去りにして、黒く重厚な輝きを放つ蒸気機関車は、観客を巻き込んで鋼鉄の車体を軋ませながら、彼らのもう一つの代名詞的テーマである地獄(Hell)へとひた走る。
ブエノスアイレスのリバープレートスタジアムでのライブ映像を見たが、ラテンの男たち(観客の9割以上が男である)が、AC/DCのたたきだすグルーヴに肉食系の本能を爆発させ、アリーナ全体がひとつの大きな心臓の鼓動のように波打ち脈打つ様は、今までに見たライブ映像の中でも最もパワフルなものの一つである。
 
(OG)